樽と木材の話part2【第6号】
皆さん、おはようございます。ミチタルの小島です。
今回は【第4号】樽と木材の話part1の話の続きをしたいと思っています。前回は木の話・製材の話・柾目と板目の話など、意外と知らない木材の話を紹介しました。もしよろしければコチラから第4号の記事をご覧ください。
世界で使用される樽の木材
樽に木材が使われることは、ご存じの通りだと思いますが、どんな木材でも樽になっているわけではありません。(※様々なことを調べながらまとめたものですので、有識者の方のご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。)
ここではその中でも代表的な樹種を3つご紹介したいと思います。
アメリカンホワイトオーク
アメリカンホワイトオーク(Quercus alba)
原産:アメリカ(ケンタッキー、ミズーリなど)
特徴:バニラやココナッツのような甘い香りを与える。タンニンが比較的少なく、穏やかな熟成が可能。バーボンウイスキーに多用される。
特に、バーボンウイスキーには「新樽を使わなければならない」という決まりがあり(ウイスキーは基本的にはワインやシェリーを入れていた中古樽で熟成させることが多く、新品の樽に入れることは少ないのですが)盛んにアメリカのケンタッキー州(バーボンの本場)を中心に使われています。
ヨーロピアンオーク
ヨーロピアンオーク(Quercus robur など)
原産:フランス、ハンガリー、スロバキアなど
特徴:スパイシーでタンニンが多く、複雑な香味を加える。シェリー酒やワイン熟成後の「シェリー樽」などがスコッチウイスキー熟成に再利用される。
ヨーロッパで生産されるナラの木のことを総じて「ヨーロピアンオーク」と呼んでいるのですが、その中でもフランスの特定の地域で育った木のことを特別に「フレンチオーク」とされています。

分類のイメージ
基本的には同じ樹種だが、育成環境や伐採・製樽技術の違いにより、性質や香味が異なるということでフレンチオークは一つ格が高いものとして扱われています。フレンチオークの中でも、産地によって樽が持つ特性が変わるとされており、 フレンチオークは「高級ワイン用」や「繊細なウイスキー」に好まれ、 ヨーロピアンオーク(特にハンガリアンオークなど)は「コストを抑えつつ良質な香味」を狙う現場に人気とされています。
同じ種類の生物なのに、生育場所や環境によって味が変わるとされているのが非常に興味深いですよね。
ジャパニーズオーク(ミズナラ)
ミズナラ(Quercus crispula)
原産:日本
特徴:白檀(サンダルウッド)や伽羅のようなオリエンタルな香り。希少性が高く、日本産ウイスキーで高級ラインに使用される。木目が粗く、漏れ防止の加工が難しい。

Quercus crispula(ミズナラ) - Wikipedia
北海道をはじめとして、日本のあらゆるところに生息しているミズナラですが、非常に似ている木の種類に「コナラ」があります。カブトムシを取っていた小学生の頃などに聞き覚えのある木の種類かもしれません。
この「ミズナラ」と「コナラ」は非常に似ている木なのですが、簡単な見分け方があります。
枝から少し支枝が伸びて葉がついているのがコナラ。枝から直接葉っぱが出ているのがミズナラです。しかし厄介なことに、この2つは交雑(ハイブリット)も存在しているのでなかなかパッと見分けをつけるのが難しかったりします。ミズナラとコナラとカシワはなかなか見分けるのが大変です。興味ある方はコチラをどうぞ。
特に、製材されて木材の状態になってしまうともうどっちか分かりません(笑)。一部、木材のプロフェッショナルの中には材の状態でも見分けられる方もいらっしゃるようですが、木材だけだとミズナラかコナラかよりも、どんな環境で育ったのかやその木自体の個体差の方が大きいように感じます。(DNAなどを調べれば分かるらしいのですが...)
つまり、木材の流通の中ではコナラとミズナラの判別が困難なのです。そういった背景からも、これらの木々は「ナラ材」としてひとくくりにされて流通することもしばしばあります。そんな中で樽のブランディングのためにミズナラとコナラをまとめて「ジャパニーズオーク」と呼んでいるのです。
左がミズナラ、右がコナラです。皆さん見分けつきますか?そっくりですよね。あと、そもそも木も人のように同じ種類でも一本一本異なります。そう考えると...確かに見分けがつかないとされているのも納得ですよね。(しかし、樽にしたときに味が違うという噂も...真相はいかに)
その他の木々
今までもご説明してきた通り、基本的にワインやウイスキーを熟成させる洋酒樽にはブナ系の木々(~オークや~ナラ)が使用されてきたのですが、それ以外の木が全く使われていないという訳ではありません。
ミチタルは「森林循環の両立と経済性の両立」を目指しています。その手段として樽を選びました。そういう意味で、特定の種類の木(例えばミズナラ)を経済性のために選択的に森から抜いていくことはやりたくありません。人間がお酒を2倍飲み、樽が2倍必要になったからといって樹齢150年のミズナラが突然生まれる訳でも、森が2倍成長する訳でもありません。
我々は、伝統的に評価され続けてきたミズナラの価値を尊重し、それと同時に今まで注目されてこなかった樹種や見逃されていた丸太を樽にすることで高い付加価値をつけようと思っています。未来のミチタルの主力商品になる木たちをご紹介します。
栗(クリ)学名:Castanea crenata
栗はチェスナットと呼ばれ、海外でワインの熟成のために使われることがあります。タンニンを豊富に含み、耐久性が高いとされています。ワインの熟成において、独特の風味を付与するために使用されるようです。山鹿蒸留所ではウイスキー用に新品の栗の樽も使用されているようです。興味ある方はコチラからどうぞ。山鹿は西日本最大の栗の生産地なので、そういった地の物を使うことは風土や気候を最大限に活用するお酒造りでは非常に重要なのです。
桜(サクラ)学名:Cerasus L.
英名はチェリーウッド(さくらんぼのチェリーです)です。桜材はウイスキーに甘くフルーティーな香りを付与するとされ、一部の蒸溜所で試験的に使用されています。ブランド力も高い木材なので、ジャパニーズウイスキーが海外へ進出する中で鍵になる木材だろうと個人的には思っています。北海道には本州で見られるソメイヨシノののような桜は少なく、寒冷地にも耐えやすいヤマザクラが多く見られます。春の山で山桜がビシッと咲いていると、それはまた美しいのです。
胡桃(クルミ)学名:Juglans
英名はウォルナットで、高級家具やフローリングにも使われます。世界に目を向けるとクルミ材を用いた独自の試みも存在します。例えば、Cooper's Daughter Spiritsでは、ブラックウォールナットシロップ(クルミの樹液から作るシロップ)を保管していた樽でバーボンを後熟させることで、独特のナッツの風味を持つバーボンを生産しています。
書いていて思ったのですが、コナラやクルミ(あと、ここには書いていないですがカエデ)などカブトムシやクワガタが取れる木が樽に向いているのかもしれませんね。おそらく樹液が甘いように木材自体にも甘み的なものがあり、焼いたときに香ばしさをつけているのではないでしょうか?(推測)樽になる木の目安は「どんぐりがなるorカブトムシがとれる」になるかもしれませんね。
実際、我々が昨年12月に初めて馬追蒸溜所様に納品させていただいた2樽のうち一つはクルミ(オニグルミ)で作ったものでした。(最近、馬追さんへ見に行った時も、漏れていなくて安心しました。)納品の様子は『初!樽詰め式の現場レポート【特別号】』からご覧ください。

手前がジャパニーズオーク樽、奥がクルミで作った樽です(4月4日時点)
エンジェルシェア(ウイスキーの蒸発量)も問題ないらしく、ホッとしました。今は昨年とは比べ物にならないくらい技術も、自分たちのアセットも磨きがかかってきたので、次回の樽に期待です!
〆のフリートーク
札幌にも春がやってきました。新学期も始まり、研究・樽・授業と3足の草鞋をはきながら、生活しております。
健康になる・体力をつける・精神面を鍛える。この3つのために最近樽の学生チームのメンバーと朝ランニングを始めました。6:30から1時間ほど走り、帰りにパン屋さんに寄って帰るという朝活を始めました。起床時間は今までそのくらいだったのですが、朝に走ってから一日が始まるしゃっきり感は最高でした。
3日坊主にならないように頑張ろうと思います。また来週お会いしましょう。代表のコジマでした。

北大のふきのとうです。昼休みに天ぷらにして食べてます。最高の贅沢です。
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